vol.5 今年もハセツネ走って参りました!の巻

台風、コロナ渦で開催されなかった3年の時を経て、4年ぶりに日本山岳耐久レース、通称ハセツネCupが開催されました。71,5km、累積標高差4,000m越え、エイドは40km過ぎに水(またはポカリ)しか補給できない過酷なレースです。また毎年昼過ぎにスタートするため、必ず夜間走のパートが出てくるのもハセツネならではです。

僕は大学1年だった18歳の時に初出場し、そこから毎年エントリーしてます。

2014年 32km西原峠でリタイア

2015年 42位 9時間11分53秒

2016年 35km三頭山避難小屋でリタイア

2017年 38km鞘口峠でリタイア

2018年 336位 15時間23分00秒

2019年 台風で中止

2020年 コロナで中止

2021年 コロナで中止


そして今年。記念すべき30回大会、走ってきました。結果は、

総合10位 8時間23分23秒

目標としていた8時間切り、6位以内には届きませんでしたが、持てる力の全てを出し切りました。これ以上のレースは今回できなかったと振り返ってみても思います。
大会関係者の皆さま、サポートしていただいている皆さま、応援していただいた全ての皆さんに感謝しております。めちゃくちゃ力になりました。


以下長いレースリポートです。
小説並みなので悪しからず。


レース6日前に平塚のゼロベースで高岡コーチとハセツネに向けて話し合いました。フィジカルトレーニングをしても捻挫した足首が腫れていて、まだ痛い。でも最終調整はしたいので、翌日ホームの大山で動きを確認してもらいました。アドバイスもいただき、あとは大会まで軽いジョギングのみで調整。



大会前は両親が応援に来たいということだったけど、コロナ対策やアクセス、天候も悪いので、SNSで速報を追ってもらうことにした。気持ちだけでもありがたい。レース前に新米送ってもらった、親父ありがと。



金曜日の夜から彼女と合流して、作戦会議。スタート、第一関門、ゴールで応援してくれるらしく、これは下手にリタイアできないなぁ…と。去年伊豆でリタイアした時も応援にきてくれたので、今回はカッコ悪いところは見せられない。



レース前日、8時から15時まで働く。いっぱいらーめん作りました。職場を出るときにアルバイトの子たちから「名取さん、優勝ね!」「俺らインスタで速報見てるので!」「お土産忘れないで!」と激励してもらった。レースに出られるのは、彼らが僕が休んでいる間、必死に働いてくれるからだ。本当にありがとう。これは頑張らないと盛大にいじられてしまうな。



レース前日は彼女が作ってくれた煮込みハンバーグを食べて早く寝た。緊張で中々寝付けなかったけど。気使って別の部屋で寝ると言われたけど、逆に気使うから、一緒に寝た。寝相が悪いのでだいたい翌日になると彼女は別の部屋に移動しているのだが、翌朝もいつも通りだった。





レース当日。



最後の荷物チェック。装備品、着替えを確認。8時過ぎに家を出る。伊勢原市の自宅からスタート会場まで下道で1時間半。途中すき家で鶏そぼろ定食ご飯大盛を食べた。うめぇ



10時過ぎに会場着。受付、軽く出展ブースに挨拶回りをして、車に戻る。事前に立てたスケジュール通りにウォーミングアップをする。調子は悪くもなく、良くもなく、それがいいってことか。幸い足首の痛みは感じなかった。ニューハレのXテープを三段階まで巻いてガチガチにする。ザックでの疲労感を軽減するために腰にテーピング、ザックの擦れを防止する為に首元にもテーピングを貼る。過去の経験を無駄にはしない。

緊張するなぁ~


行くべ。


ジェル、うん16個ある。その内カフェイン入りが4つ。電解質タブレット。水1.5Lハイドレーション、ペラペラのウインドブレーカー、ヘッドライト、予備のe-ライト、非常用兼ブースター兼ねてVAAMアスリートを250mlソフトフラスクに。水が切れた時の保険と後半に体を動かす布石になる。



スタート前。
この和やかな中にもピリついた雰囲気。
ハセツネが戻ってきた。
ハセツネが帰ってきた。
いよいよ始まる。

ALPスキーチームのホープ、小林海仁選手と。長野の佐久長聖高校陸上部出身のスピードランナーだ。彼とは仲がいい。健闘を誓う。



スタート15分前。



久しぶりの須賀暁選手と二人で「名取くん、すみませんって言いながら前行こう」とスタート最前列まで進む。



トレラン日本選手権と呼ぶのに相応しい顔ぶれだ。今までのハセツネを思い出す。浮かれてたなぁ…
今年は地に足着いている。
むしろ自分がどこまでやれるか、楽しみだ。緊張よりワクワクが勝ってきた。



さぁ行こう。



12:45 スタート
今年もハセツネが始まった!



流れに身を任せて沿道を駆け抜ける。
大通りに出て、毎年恒例のミスコースしかける選手を横目に最短でコーナーを曲がって先頭に出る。

神社の登りに差し掛かると、横内佑太朗選手、川崎雄哉選手、須賀選手が想定通り飛ばしていく。ここに着いたらダメだ。手元の時計の心拍数は172bpm、オーバーペースである。
一気にペースダウンしないよう、徐々に後退しながら心拍、動きを落ち着けていく。まだ始まったばかりだ。トレイルに入る。
ここでの動きはただ疲れるだけなので、前の選手から5mほど距離をとって着いていく。



トレイルを抜けて、発電所前のロードに降りる。ゴールドウィンの後藤さんがいる。ここで大瀬和文選手、木村大志選手が先行する。信越五岳の100マイルで優勝、ペーサーのコンビ。川崎選手といいダメージ0かよ。



今熊神社の前で沿道にいた望月将悟選手から「おっ!名取じゃ~ん、頑張れよ~」と檄を貰う。嬉しいな。今熊神社の登りに差し掛かると石川弘樹さんからも檄をもらい気持ちがノッテくる。ただここで舞い上がってはダメだ。



周りの選手が軽快に今熊神社の登りを駆け上がって行くのを見ながら、できる限り速いペースで歩く。ここを走ったら潰れると言い聞かせる。僕は歩くのが他の選手と比べてめちゃめちゃ遅い。だから極力登りもゆっくりでいいから走りたいのだが、ここは歩かないと。牛田美樹選手や岩井竜太選手に抜かされながら、今熊山分岐に15位前後で通過。さぁこっからが僕のターンだ。



ベテランだけどオールラウンダーの実力者、宮川朋文選手、伊豆トレイルで優勝経験がある伊藤康選手と3人パックで前を追う。こっからは登りもしっかり走る。ハセツネはでかい山が3つだけど、細かいアップダウンが無数にある。それを事前の試走で細かくチェックし、どの登りは走るか、歩くか、確認と検証を繰り返してきた。この登りは傾斜は急だけど、すぐ下りだから走り切るとか、この登りは傾斜は緩いけどその後直登するから最初から歩くなど。



とにかくペース配分と足の疲労を散らすことを意識して、足を温存していく。
いい波に乗ってきた。
ハイドレーションの水は一回に飲むのは2口まで。一気に飲まない。ジェルは30分毎に時計にタイマーをかけて必ず摂取を守る。



パックが崩れて伊藤選手と二人で前を追走。市道分岐通過。

この先で先行していた岩井選手も吸収する。岩井選手から「名取、前行ってもいいよ」と声をかけられ、単独で前を追走する。


プラン通り、今熊の登りで足を使った選手にここらへんで追い付いてきた。



下りで足を使わない、登りは極力歩かず、刻むように走る、bpmは155~165をキープ。



10km過ぎ、急カーブのトラバースを過ぎた頃に前の選手がちらっと見えた。ノースのザック。田村健人選手だ。通称タムケン。青山学院大学の陸上部出身、学生時代の5000mは14分一桁のスピードランナーだ。今季は奥信濃50kで優勝してる。追い付いて声をかける。



「田村くんだよね?」「名取さんですか?インスタ見てますよ」「学生時代から知ってるよ」「これどれくらいのペースですか?第一関門まで2時間28分で行きたいんですけど」「ちょっと遅いかも、2時間35分くらいのペースかな」



田村くんが最後尾のパックは先頭から大瀬選手、木村選手、青木純選手、佐谷尚紀選手、牛田選手の大所帯だ。だがそんなにペースは早くない。淡々と中盤以降、前を食らおうとする雰囲気が分かる。



ただこのパックでレースの最難関、三頭山の直登に差し掛かったら分が悪いと感じていた。あそこは走れない。僕は歩きは激弱だ。置いてかれてしまう。少しでもアドバンテージがほしい。でもこのパックの選手は全員格上の実力者だ。前に出るか迷う。



腹を括った。
道が少し広くなった所で脇から6人抜いていく。
やってやろう、この日の為にめちゃくちゃ準備してきた。
彼らに実績では劣るかもしれない。
でも今の自分なら力が拮抗してるはず。



青木選手だけ着いてきた。
後ろを引き離して、二人で醍醐丸の登りを駆け上がっていく。


下りで青木選手を引き離す。
また一人の時間がやってきた。
まだきつくない、十分余力がある。
時計を見て計算する、第一関門浅間峠にだいたい2時間30分に通過しそう。
サブ8も狙える。事前の段階では2時間35分で通過予定だったけど、プラン変更だ。この位置で今日は粘っていこう。



各分岐のハセツネビブを着たスタッフにありがとうございます、と伝えながら軽快に進んでいく。何年前か、この木段の登りで加藤淳一選手と沈選手にぶち抜かれたなぁ…と思いながら、今年は力強く登っていく。



浅間峠が近づいてきた。前に一人発見!明らかにペースダウンしてる。
ウルトラスパイアの小さなザック、レジェンド東徹選手だ。足の状態は悪そうだし、スタート前も練習不足からくる不安を口にしていた。

「東さん、大丈夫ですか?」

声をかける。ちらっとこっちを見て、東さんは小さく頷いた。大丈夫だ。


前を行こう。





歓声が近づいてくる。




第一関門 浅間峠
2時間28分 9位で通過。
予定では10位~15位くらいを予定していたが、自分の感覚を信じてここまできた。今日は絶対に潰れない。



赤と青のレインジャケット、俺が渡したスポルティバのやつ目立つなぁ。笑
彼女がスマホを構えている。
右手をあげる、いけるよと。
トモさん、あんなちゃん、かろ先輩。
賑やかだ。
歓声に背中を押されて駆け上がっていく。

登りきってから一旦深呼吸。
集中。
補給、忘れない、マイルールを守る。
心拍数確認。
大迫選手×GMOの動画を心で唱える。
「コントロールする意識。筋肉の細部まで。」

さぁこっからどれぐらい走れるか。
三頭山に向けて徐々に登っていく。
無論走り続ける選択肢しかない。
細かく、刻む、前傾し過ぎず、登っていく。
過去ここをレースで走って通過できた記憶が無い。いつも潰れて、言い訳を考えながら、どこで止めるか考えながら歩いた記憶しかない。



今日の俺は過去一番強い。
今日に向けてどれだけ準備してきた?
間違いなく一番自信を持ってスタートできたのが、今年だ。



ペースはそこまで落ちてないが、後ろから足音が近づいてくる。
大瀬選手と木村選手だ。
足取りが軽い。
決して自分が遅いわけではない、二人の動きがいい。
無言で道を譲る。
まだ諦めてない。
無理には着いて行かないが、視界に入る範囲でできる限り追走する。速いな
西原峠を過ぎて、二人の背中が見えなくなる。薄暗くなってきた。



槇寄山通過、ここからはたかちゃん(髙村貴子選手)と二人で試走したルートだ。
自分の苦手とするパートに入る。
走れない傾斜の登りが続く。
思っていた以上の寒さで筋肉が硬直して足が上がらない。筋肉が痛い。
四頭筋に手を置いて、一歩一歩、大きく息を吐きながら登っていく。
過去のハセツネが蘇る。ここで腰を下ろして休んだなぁとか、水が切れて手が痺れてきたな…とか。
このパートはいつ走っても辛く、険しく、苦しい。辛さで顔が歪む。
それでもタイマーが鳴ったらジェルを飲む、水を二口、電解質のタブレットを飲み、ザックのハーネスを少し緩める。
水は月夜見駐車場までぜんぜん足りる。非常用のVAAMを半分飲む、脂質を燃やせ、まだ動けるだろ?



まだ避難小屋手前の下りに差し掛からない。
苦しい。メンタルもきつくなってきた。




あれ、背中が見えた。

長身の選手が疲弊しながら登っている。

すぐに追い付いた。

横内選手、上武大学で箱根の山下りを経験、トレイルレースでも勝てた記憶は1度もない。

「横内さん、大丈夫ですか?」

「涼しかったから、水全然取ってなくて、気づいたら足がつってきてた。気づいてから水取ったけど、ダメだよ」


胸のポッケから電解質のタブレットを差し出したかったけど、ハセツネはそれができない。ルール違反だからだ。

「横内さん、月夜見まで行けば回復できますから、頑張りましょう」

右手をあげて応えてくれた。



前を行く。



いつも横内さんのトレーニングのログを見ると戦意喪失するレベル。キロ3'10でペーラン?まじかよ…

平地のスピードなら絶対勝てない。




僕は格闘技が好きだ。
少し前だけど、天才と称されたボクシングの畑山隆則チャンピオンが坂本選手との世界タイトル戦前の言葉を唱えながら進む。

「彼は自分のアゴに自信を持っているんですよ。」

「僕はアゴに自信が無いんですよ。」

「で彼はパンチがあるんですよ。」

「僕にはパンチが無いんですよ。」

「だから僕が勝てるんですよ。」


自分の強みはなんだ?
自分の弱みはなんだ?
自身をできるだけ理解し、戦略を立てて、戦う。
横内さんのようなスピードはない。
100マイラーのようなスタミナもない。
じゃあどう戦うか?
それが僕が今日に向けて準備してきた全てだ。
かなり暗くなってきた。
まだライトは取り出さない。




三頭山のスタッフにありがとうございます、と声をかけて駆け下っていく。
鬼門を乗り越えた。
4時間18分、試走より30分速い。
ダメージはあるものの、まだ足は残っている。
水の流れのように、足へのダメージを散らしながら下っていく。



鞘口峠でようやくライトを取り付ける。
マイルストーンのMS-i1エンデュランスモデル


明るく、暖色の光は目の疲労も少ない。
照射時間も申し分なく、コスパも素晴らしい。



自分のストロングポイントのひとつが目がいいことだ。だからここまでライト無しでこれた。ヘッドライトの重みは首に負担がかかったり意外とダメージがくる。


プラン通り。


鞘口峠からまた細かいアップダウンが続く。また一人落ちてきた。


荒木宏太選手だ。

「荒木さん、トラブルですか?」

「俺はいつもこうだよ、いやぁ走れないね」

「自分も結構きついっす。お互い頑張りましょう!」



前を行く。



三頭山から降りてきて、標高も下がったのできもち温かくなった。それに伴い寒さで感じてた足の痛みも消え、またリズムが戻ってきた。



こんなに楽しいハセツネは初めてだ。



鞘口峠から先はとにかく走る。暗い時に走ると登りがきつく感じるが、明るいときに走ると長い登りは無く、足が残っていれば走れる。
そのイメージを再現しながら登りは刻む、下りは歩幅を小さくして最小限のダメージで進む。



淡々と集中しながら進むとライトが網のフェンスを照らした。月夜見駐車場はすぐだ!



公道に出る。あぁ、なんて楽しいハセツネなんだ、今日はいける。Twitterで速報見てくれてるみんな、楽しんでくれてるかな?




第二関門 月夜見駐車場
4時間58分 到着
サブ8はきついか?



Dogsorcaravanのお手伝いで来てるなみねむさん(渡邉さん)、ニューハレの芥田さん、VESPAの齋藤さんと言葉を交わす。

「名取!前と4分差!」

「今何位ですか?」

「8位!」

「水?ポカリ?」

「水で!あぁ自分でやるんすね!」

ハイドレーションに500ml水を補給する。うまく口が締まらねぇ、くそっ

「この日の為に1年間やってきましたから。ありがとうございました!」

月夜見を後にする。
さぁ終盤戦だ!

月夜見から先の下りは土砂降りの影響で滑り台のようなサーフェスだった。
少し蛇行しながら、モーグル選手のようにS字を描きながら下っていく。
できるだけ同じ筋肉を酷使したくない、ダメージを極力散らしたい。



一度滑って転ぶ。泥だらけだ。くそっ!
ショーツの裾で手を拭って、雨足が強くなるなか進む。



御前山の登りに差し掛かる。
今日一番のボスだ。
ダメージがある足には走れない斜度の登りが30分以上続く。ただこの山場を我慢すれば、自分が得意としてるセクション、そしてゴールが見えてくる。踏ん張りどころだ。



あまり先は照らさず、足元を照らして一歩一歩進む。なんてコースだ。登りの終わりが見えない。あぁ過去この登りで何回も座り込んだな。足が上がらなくなった。今日は絶対に止まらない。ここで止まったら食われる。



大きく息を吐く。
時折、極度の緊張から後ろから鈴の音が聞こえて振り返る。真っ暗だ。
抜かれたくない。
プッシュしろ。みんな苦しい。
俺だけじゃない。
みんな苦しい。
カフェイン入りのジェルをぶちこむ。
ハセツネの1ヶ月前からコーヒーやエナジードリンクなど、全てのカフェインを断ってきた。
プラシーボでもなんでもいいから、この苦しい山場を乗り越えたい。
残りのVAAMも全部飲み干す。
今日一番の山場だ。顔が歪む。
プッシュしろ。ザックミラーの顔を思い浮かべる。
どれくらい時間が経っただろうか?



登りが一度平坦になり、木段に変わる。登り続けてたダメージですぐにランに切り替えられない。スタッフの歓声が聞こえる。走る。



ありがとうございます、と伝えて御前山を後にする。とんでもない山場だった。登りきったというより、精神的には倒したといった気分だ。



さぁこっからは自分が得意とするパートだ。本日2度目の俺ターン!が始まる。笑


スリッピーな木段を手でバランスを取りながら駆け下っていく。水曜高尾練の仲間たちと練習した日々を思い出す。どれだけナイトランで、木段を下っただろうか。毎週、毎週。一緒に練習してる仲間たちに吉報を届けたい。



木段が終わると下り基調の細かなアップダウンが50km地点の大ダワまで続く。登り返し、全部歯を食いしばって走る。絶対歩かねーぞ。

たかちゃんと試走した時も、

「名取、そこ走るんだ…?」

「ここ意外と登り一瞬で、ちょっと頑張ればすぐ下りきますから。」

「たしかに…試走しといて良かった~」

たかちゃんなら絶対ここを走り通してくる。
だから俺も歩かない。
ここのセクションの今日の最速ラップは自分が取ったと思う。

「階段、足元気を付けてー!」

声が聞こえる。

あっという間に大ダワに到着。




さぁ3つ目の大岳山の登りに取りかかる。
ここは試走で完璧に頭に叩き込んだ。
岩場の鎖場以外は結構走れる。



御前山からの下りで足にいいスイッチが入った。
すいすい登っていく。
おいおい、今日の俺、出来すぎじゃん。
結構走れてるぞ?これで8番かよ…



鎖場に取り掛かる。
やっば足にダメージがあると結構きつい。
気抜いたらバランス崩しちゃうな。
相馬さん、さすがにここは走らなかったでしょ…
と気を紛らわしながら、大きく息を吐いて登る。
頑張れ、もう終盤だ。時計は6時30分を過ぎてる。8時間切りはきつい。でもまだ前の選手を食えるかもしれない。



大岳山山頂通過。
三頭山、御前山に比べれば子ボス。
でも思ったより足にきてる。
そりゃそうか、ここまで50km以上、4000m近く累積を踏んできた。
さぁ、出しきるぞ。



大岳山から慎重に下る。
そこから御岳神社まで緩やかに登っていく。
辛い、しんどい、でも絶対に歩かない。
歯を食いしばる。みんなきついんだ。
俺だけじゃない。
あと2人抜けば表彰台だ。
スペインで昨日戦ってたつばさ(藤飛翔選手)とも表彰台にあがると約束した。
諦めねぇ。



御岳神社の参道に入る。
息が上がる。満身創痍だ。
Trail Storyの立子さんがカメラを構えてる。
もう元気に応じる余裕なんて微塵もなくて、食うか食われるかの勝負だ。



日の出山に向かって、必死に腕を振る。
スタッフが

「最後の登りですよ!!」

と檄が飛ぶ。

ぜんぜん最後じゃないって知ってるけど、心の中でツッコミを入れて息を荒げながら登っていく。
ダメだ、走れない。
歩きながら、後ろを振り返る。



明かりが近づいてくる。



まじかよ!!
ここでかよ!!
ちくしょう!



少し走る。ダメだ、日の出山の階段は歩く。
日の出山の山頂でまくられた。


宮川選手だ。
ここでか…
本当に強い。
なんて選手だ。



後ろからも明かりが近づいてくる。
僅差だ。
本当に食うか食われるかの勝負になった。
しかも最終盤で。



後ろは誰だろう。
岩井選手かな、だったら分が悪い。
岩井選手は下りに滅法強い。
それか牛田さん、田村くん、たかちゃんあたりか。



でも追い付かれたら終わりだ。
テーピングしてるとはいえ足首は捻挫のダメージがある。お腹も少し差し込みがきてて痛い。




でもここまで来て絶対に負けたくない。




舗装されて逆に走りづらくなった木段を宮川さんがガンガン攻めていく。ありえないスピードだ。
離されまいと必死にチェイスする。
もう抜ける足は残ってない。
足も止まりかけてる。
でもこれでハセツネは終わりだ。
やりきるんだ。
宮川さんと静まり返った金比羅尾根を5キロに渡り追走した。
少しずつ宮川さんの背中が遠くなる。
でも歯を食いしばって、なんなら少し涙が出てきた。





あと2キロの看板。
あぁハセツネが終わっちまう。
ふくらはぎやお腹、四頭筋、至るところが痛い。
必死に腕を振る、息が上がる。





あと1キロ
帰ってきた、帰ってきた。
転ばないように、でももう丁寧に着地なんてできやしない。
それでも必死にもがく。





市街地に入った。
こんなに静かだったっけ。
はぁ、もう終わる。
すんごい1日だった。
みんな見てるかな。
お父さん、お母さん、今日は俺結構頑張ったわ。
三頭山辛かった。
御前山、あぁとんでもないコースだった。
コーナーを曲がる。
明かりが大きくなる。






「ナトリだー!」

「名取くん、最後!」




はぁ、あとちょっと、くそっ!


ゴールに飛び込む。
















はぁ、はぁ、はぁ

終わった…

出し切った…

計測タグを外してもらってる間、目を瞑る。




「いい一日だったな…」








市毛富士雄選手、小田切将真選手、宮川選手と互いに健闘を称え合う。







この後、福田六花先生からインタビューを受けてあれこれ話したけど、話してる間、何人も知り合いを見つけて心ここにあらず。
みんなありがとう。



お、ちゃんとゴール戻ってこれたね。
今日は帰ってこれたよ。


ありがとう。





この後、菊嶋啓選手が一般のスタートで自分より早い順位でゴールした為、僕の順位は繰り下がり、総合10位になった。



上田瑠偉さんから、トップ10のお褒めの言葉をいただき、かろ先輩からもやったじゃん!と褒めてもらえて、ちょっと嬉しかった。




翌日


朝ラー最高!







表彰式も行ったよ。


おこぼれで年代別2位。


みんなでレース中のあーだこーだで楽しい時が過ぎました。

あぁ…楽しかったな。
いやゴールだけで美化し過ぎか。
レース中はしんどい時間ばかりだった。


まぁそれがハセツネ。


来年は8時間切り?
3位以内?


はぁ頑張るか…


でも今日からようやくお酒が飲める。



また1年後。



ナトリ

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